ずっとギターが欲しいと言っていた友人から、先日連絡が来ました。
「ついに買った、ジャズマスター」と。
何ヶ月も迷った末の決断だったそうです。
形はどれがいいか、ピックアップは何にするか、色はどう選ぶか。
店員さんに相談し、ネットの記事を読み比べ、ずっと頭を悩ませていた友人。
最後の決め手になったのは、意外なものでした。
「魂を揺さぶられる音」。
メーカーのサイトに載っていた、たったそのコピー一行で買ったというのです。
嗜好品は、感情で買われる
スペックではなく、コピー。
これ、心当たりのある方も多いのではないでしょうか。
特に嗜好品では、機能の比較表だけでは決め手にならないことがよくあります。
人は、感情が揺さぶられたときに「欲しい」と思います。
そして、欲しいと思った瞬間から、買う理由を後づけで探し始めるもの。
脳の動きとして、もはやそういう順番になっています。
生活必需品では、ここまで露骨にはなりません。
洗剤や歯ブラシを買うとき、「人生が変わる」とは思わないですよね。
でも嗜好品は別世界。
楽器、車、時計、カメラ、ゴルフクラブ。
こうしたカテゴリは、ほぼ感情で動くと言って良いほどです。
ピックアップの種類で迷い続けていた友人を、最後に動かしたのは数字ではありませんでした。
感情を揺らす、一行のコピー。
それで何ヶ月もの迷いが、ふっと吹き飛んだのです。
楽器メーカーとスポーツ用品メーカーは似ている
楽器メーカーと、スポーツ用品メーカー。
この2つ、ビジネスの構造がよく似ています。
どちらも、一部のプロフェッショナルが広告塔になります。
プロギタリストの愛用モデル。
有名選手のシグネチャーモデル。
これに憧れたホビーユーザーが商品を買うことで、売上が成り立つ仕組みです。
楽器店で楽器や消耗品を買っている人のほとんどは、音楽で生計を立てている人ではありません。
ゴルフショップでクラブを買っている人のほとんども、プロ選手ではない。
みんな、趣味で楽しんでいる人たちです。
だからこそ、エモーショナルなコピーが刺さるのです。
「上達するための道具」ではなく「理想の自分に近づける道具」として売られている。
そういう構造になっているのだと思います。
楽器メーカーやスポーツ用品メーカーのサイトを見てみると、よくわかります。
- ここに、人生を変える1本がある
- 憧れを、手に入れる時
- あなたの音が、ここにある
スペックの数字よりも、感情の言葉が前面に並ぶ。
そういう作り方で、しっかり売れていく構造ができあがっているのです。
業務用機械にエモーショナルコピーを載せたら、どうなるか
では、これと対極にある商品はどうでしょう。
工業用機械、厨房用品、業務用設備。
こうした商材で重視されるのは、機能、価格、耐久性、ランニングコスト。
要するに、自社のビジネスにどれだけ貢献してくれるかです。
ここに心を揺さぶろうとしても、買ってもらえません。
試しに、業務用機械にエモーショナルコピーを当てはめてみましょう。
- 業務用フライヤー:「揚げる、それは魂の咆哮」
- 産業用旋盤:「あなたの夢を、削り出す」
- 業務用エアコン:「風が、人生を運んでくる」
…はい、見事にすべっていますよね。
お笑いの大喜利には使えるかもしれませんが、購買意欲はゼロ。
むしろ「このメーカー、大丈夫かな?」と心配になってしまいます。
業務用品を選ぶ担当者が本当に知りたいのは、消費電力、メンテナンスのしやすさ、故障時のサポート体制、納期。
こうした実務に直結する情報です。
ここに詩的な言葉を並べても、響くどころか不信感を生んでしまうのです。
なぜなら、業務用品の購入者は「自分が惚れ込む」ためではなく「会社の利益を出す」ために選んでいるから。
社内の稟議書に「魂を揺さぶる音」と書いて、上司から判子をもらえる人はいません。
そこに必要なのは、コスト試算表と、稼働実績のデータなのです。
同じ会社でも、相手によってコピーは変える
ここまで読んで、お気づきの方もいると思います。
大事なのは商品ジャンルではなく、「誰に売るか」なのだと。
同じ会社、同じ製品でも、売る相手によってコピーの言葉は変わるべきもの。
プロが使う業務用に売るなら、機能訴求。
趣味で買う個人ユーザーに売るなら、感情訴求。
これが基本のかたちです。
ここで、よく見かける落とし穴があります。
長年BtoB(企業向け)で実績のあるメーカーが、DtoC(個人向け直販)を始めたときに陥りがちな失敗。
それは、心を揺さぶるべき相手に、機能とスペックだけを並べてしまうことなのです。
「弊社の製品はモーター出力が業界トップクラス」
「独自開発のセンサーで精度0.01ミリを実現」
「ISO認証取得済み」
たしかに、どれも素晴らしいスペックです。
でも、相手は個人のユーザー。
家でちょっと趣味として使いたい人に、こうした数字を並べても、ピンとこないのです。
そこで欲しい言葉は、「この道具があると、自分の生活がどう変わるのか」というイメージ。
作り手目線ではなく、使い手目線の言葉と言い換えても良いかもしれません。
素晴らしい作り手ほど、この感覚が薄れていく
ウェブの仕事をしていて、よく感じることがあります。
それは、製品が素晴らしいメーカーほど「相手に合わせた言葉の使い分け」が苦手になりがちだということ。
技術者として優秀な方ほど、製品の細部に強い愛着とこだわりがあります。
だから、伝えたいことが山ほどある。
スペックも、設計思想も、こだわった素材も、全部を説明したくなるのは自然な気持ち。
でも、その情報を聞きたい相手と、聞きたくない相手がいます。
誰に向けて発信するのか。
誰に買ってほしいのか。
ここを設計しないまま情報を並べてしまうと、せっかくの良い製品が、伝わらないまま終わってしまいます。
あなたのサービスや商品は、誰のためのものですか?
プロ向けですか、それとも趣味で使う個人向けですか?
購入者は、どんな瞬間に「欲しい」と感じる人ですか?
この問いに、明確な答えを持っているかどうか。
そこが、ウェブでの情報発信が成功するか失敗するかの分かれ目になっていきます。
「誰に売るか」の設定こそ、ウェブ制作のスタート地点
「魂を揺さぶる音」というコピーがジャズマスターを売ったのは、相手が嗜好品として買う個人だったから。
同じコピーを業務用機械に載せても、ぜったいに売れません。
これはコピーの良し悪しではなく、設定の問題なのです。
サイトのリニューアルや新規制作のとき、まずやるべきはデザインでもコーディングでもありません。
「誰に売りたいか」を、できるだけ具体的に決めること。
その想定から逆算して、コピーも構成もデザインも決まっていきます。
優れた製品を持っているのに、ウェブで売れないと悩んでいる事業者の多くは、製品が悪いわけではないのです。
売り先の設定と、言葉の選び方。
このどちらかが、お客様とすれ違ってしまっているだけだったりします。
コモウェブでは、ウェブサイトの制作だけでなく、こうした「誰に向けて何を伝えるか」の整理からご相談を承っています。
BtoBからDtoCに踏み出したい。
スペック中心のサイトから、もっと感情に訴える構成に変えたい。
そんな段階でのご相談こそ、お気軽にどうぞ。